推し、燃ゆ 作_宇佐見りん 河出書房新社 2020年初版
始まりは「推しのアイドルがファンを殴った」から。大変なことだがどこか面白さを感じてしまったが、
ただのコミカルな小説と思うことなかれ
この小説は「生きづらさ」と「推し活」が両輪となっています。そして「今後の生き方」。
それぞれに焦点をあてて感想を書いていきます。
推しのアイドルに情熱を傾ける女子高生あかり。ここはコミカルパートかな。印象的なエピソードは以下の3つ。
・推しの発言を漏らさずブログに書き、考察する。
・バイトに明け暮れ「一時間働けば千円だ!」という思考でなく、「一時間で写真一枚!!」などと時給をグッズ換算している。
・推しの誕生日を祝うためにホールケーキを作って、一人で全部食べて気持ち悪くなって吐く。
頑張ってるなーとほほえましく読んだ。その背景には推さなければ人生の支えがなくなるという切迫感もあったわけだが。。。
肝心の推しはというと、わりと
推し、燃ゆ
始まりは「推しのアイドルがファンを殴った」から。大変なことだがどこか面白さを感じてしまったが、
ただのコミカルな小説と思うことなかれ!
この小説は「生きづらさ」と「推し活」が両輪となっています。そして「今後の生き方」。
それぞれに焦点をあてて感想を書いていきます。
推し活
推しのアイドルに情熱を傾ける女子高生あかり。ここはコミカルパートかな。印象的なエピソードは以下の3つ。
・推しの発言を漏らさずブログに書き、考察する。
・バイトに明け暮れ「一時間働けば千円だ!」という思考でなく、「一時間で写真一枚!!」などと時給をグッズ換算している。
・推しの誕生日を祝うためにホールケーキを作って、一人で全部食べて気持ち悪くなって吐く。
頑張ってるなーとほほえましく読んだ。その背景には推さなければ人生の支えがなくなるという切迫感もあったわけだが。。。
肝心の推しはというと、わりと傍若無人。
ファンは殴るわ結婚を隠す気もないし、それが原因でアイドルグループを解散にまで追い込んでいる。
それでも大幅に一喜一憂することなく、推しの全てを観察し正しく理解し推し通す。
友人のように推しとの接触を夢見ない。
この潔さはすごくいいなーと思った。
あかりは「普通に生きること」がとても難しい。
ここのパートは病み描写も細かいし、読んでいてしんどくなってくる。
冒頭、あかりの生きづらさに何かしらの診断が下されます。
詳細は明かされることはありませんが、恐らく昨今語られることが多い障害のことかと思われます。
表紙絵の意味がわかった気がします。手足にヒモがついた、自分の意思で動かしづらいマリオネット。やりたいようにできない、あかりの心情そのものだろう。
家族、学校との関係、バイトに至るまで一手間違えるたびに周囲から袋叩きにされるような。かなりしんどいだろうな。。。
特にバイトのシーンは自分も飲食店で働いたことが思い出されてすごく共感した。料理運びや注文に呼ばれたりと竜巻の中にいてわけがわからなくなる感覚。
あかりはバイトだけでなく人生のほとんどの場面で、大荒れのなか翻弄され叩き潰されたのだろう。
亡きおばあさんの家での独り暮らし。
片付けもままならず、カップ麺のスープなど様々なごみがリアルに堆積していく様子が描かれている。緩やかに死んでいくように思える。
このままあかりはダメになるかと思われたが、ラストシーンは「綿棒を拾った」。
どうにも立ち行かなくなって物に当たった際、被害が少ない「綿棒」を無意識で選んだことに自嘲します。
それでも拾う。
これまでは部屋にはごみが散乱していたが、今回の綿棒は拾った。
これはたまたまか。それとも今後の人生を変えるきっかけか。。。
小説のラストにもってきたことから後者と願う。
もはや推しもいない、背骨のなくなったこの世界でもあかりは頑張ろうとしています。
救いのある終わりだと思う。わかりやすいハッピーエンドではないけど、前向きに未来を指し示していた。
意外にも活力をもらえる小説でした!
面白かったです。