コンビニ人間 作_村田沙耶香 文藝春秋 2016年初版
芥川賞受賞作「コンビニ人間」のネタバレあり感想です。未読の方は紹介記事をぜひ!!
それではどうぞ!
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この小説はめちゃくちゃ面白かった!!登場人物や印象的なエピソードに沿って感想を書いていきます。
主人公の古倉は結構ぶっ飛んだ人だ。合理的だけど先を考えないと言うか。。。
衝撃的なエピソードは、妹の子供が大泣きしていて必死にあやしている様子をみて
「泣き止ませたいなら別の方法があるのに」と刃物を見て思っていたところ。
これは、、、日常生活を送っていくのが相当大変だったのではないか。
家族は古倉の性格を「治療でなおるもの」と期待したが、生まれ持ってのものなのでどうしようもない。
村社会では「異物」を排除する傾向があり、古倉は「擬態」してなんとかすごしている。
具体的にはコンビニの同僚の口調などを真似たり、意見に賛同したりというもの。
これに関しては古倉ほど極端でなくてもみんなやっていることなのかなーと思う。
日本はまだまだ村社会、共同体のなかで過ごす時間が長くどうしても異物は排除せざるを得ないのだろう。後述する白羽のような人が同僚にいたら、排除したくなる気持ちはわかる。。。
そんな擬態して生きている古倉は周囲との摩擦を避けることに腐心している。
うまく世界になじむのは「コンビニで働く」ときだけ。
コンビニは、商品の陳列・お客様の対応・ホットスナック作りなど多岐にわたる業務があるが、
それらに対しては歯車が噛み合ったように働くことができる。コンビニのことを思えば、やることは明確なのだ。
それはかつての店長にも言われた「日常の体調管理」にまで及ぶ。食事、睡眠、身だしなみ全てを丁寧に整えコンビニの仕事のために準備をする。
こうして古倉の日常はキレイに回っていく。
そこに現れたのが新人バイトの白羽だ。
白羽は典型的な落伍者だ。身だしなみもぼろぼろ。縄文時代の話から察するに、世の中を心底馬鹿にして恨んでいる。
自身がコンビニで働くにも関わらず、同じコンビニ同僚のことも馬鹿にしている。客にストーカー行為もする。借金も踏み倒す。
なかなかやばいです!プライドも非常に高い!!
そんな白羽と古倉の同棲はWin-Winの関係と思いきやもうめちゃくちゃ。。。
同棲って仲良い人がするイメージでしたが、この二人の関係は「飼育」です。
風呂場を陣取る白羽。古倉は、洗面器にゆでた野菜を入れて差し出す。本当にエサみたい。
ふたりはこれで良いのです。
古倉は、周囲からの「普通」の期待に「隠れみの」のように使えるし、
白羽はそもそも外界から完全に隠れられる。
しかし、古倉の妹からすればこんな異常な関係は到底耐えきられるものではありません。。。
治ったと思った姉は完全に悪化してます。スゲーかわいそう。
事態はどんどん悪化します。
白羽は安定な生活をしたいが資金源の古倉はコンビニバイト。二人分の食費もかさみ厳しくなってきたため、白羽は古倉に「正社員になること」を命じます。どんだけひどい奴だ白羽。。。
そのせいで18年勤めてきたコンビニをやめることに。古倉もわりとあっさり動いててびっくり。
そこから古倉の生活スタイルはどんどん崩れていく。かつての店長に言われて以来続けていた「日常の体調管理」もコンビニがなければ何もする必要がない。寝て起きて少し食べて寝るだけ。
顔にうっすら髭が生えるまで、生活は崩れていきます。コンビニが彼女を生かしていたことが良く伝わります。
生きがいを失った古倉は白羽に促されるまま面接に向かいます。その道すがら白羽がトイレに立ち寄ったのは「コンビニ」。
ずいぶん久しぶりにコンビニに入った古倉は衝撃を受けます。
陳列されていない商品、新商品は全然目立つ位置にないし、ガラス戸は指紋が付いている。
この状況を目の当たりにし古倉は「コンビニの声」が聞こえるようになります!!
漫画や映像になっていたら古倉の周囲は光に包まれ彼女の目は輝いていることでしょう!
完全に「覚醒」です。
小説ながらも自分の目にはありありと光景が浮かびました。
古倉はコンビニの声を全身に受けながら流れるように作業をこなしていく。コンビニの体現者として。
もはや自分の意志が体を動かしているのではない、コンビニが古倉を通して理想の姿に足らしめるために動かしているのだ!
ここのカタルシスはすごかった。
コンビニ人間というタイトルの意味を私は「食事等を完全にコンビニに依存している人間」と思っていました。
しかし、今思うことは「コンビニそのものだった」ということ。彼女はコンビニのために生まれてきたのです。もはやコンビニで「働く」ということすら間違っている。コンビニを理想の姿にするための装置なのだ。
今の古倉の手は、爪が伸びており、白羽の粘っこい手に捕まれている。ダメだ。お客様にお釣りを渡す大切な手だ。
身だしなみは?体調は?全部ダメだ!コンビニをコンビニ足らしめるためには全てを整えなくては!
ようやく古倉は自分の正体を自覚したのです。
家族、友人に対する「外面」などどうでも良いのです。そのために白羽を引き留めておく必要などどこにもない。
彼女の全てはコンビニのため使われるべきなのだから!
迷いや生きづらさから解放された彼女は輝いて見えました。シンプルな存在意義にようやくたどり着いたのです。
これからの彼女は世界の歯車ではなく、コンビニの体現者として充実した日々を送ることでしょう。周囲の価値観ではそれは異常なことなのかもしれない。
しかし、幸せはどこまでも主観的なものなのでしょう。人に迷惑をかけない範囲であればそれで良いと思います。古倉はコンビニ店員として頑張るわけですから良いのでしょう。
短いですがインパクトがあり、生き方について考えさせられたとても良い小説でした。
またこのような小説を読んでみたいなと思いました!
(かつて読んだ魍魎の匣という小説でも「生き方の描写」で同様の衝撃を受けました。未読の方はぜひ!)